　先月、我が家では大きな模様替えをおこなった。それまでは、引越しの時に大家さんが善意で置いてくださっていたテーブルと椅子がリビングの中心にあり、もう一部屋は家人の仕事部屋というスタイルだった。それを、テーブルと椅子を外して、リビングの中央を腰くらいの高さの棚で仕切る形にした。棚で仕切ったリビングの半分はラグを敷いて、無印のビーズクッションソファを二つ置き、くつろぎスペースにした。このソファは別名、「人をだめにするソファ」としても知られているが、その座り心地は確かにとろけるようで、なるほど、これはだめになるわ……と実感した。

　棚は背中合わせになっていて、くつろぎスペースと反対側の棚は、漫画本の棚になっている。そこには布をかけて、椅子を棚の前に動かせば、書き物机に出来るように整えた。ちなみに、棚のすぐ近くにはちゃぶ台があって、食事時にはこれをくつろぎスペースに動かして、食卓としている。就寝時は、ラグとソファを片付けて、マットレスを敷いて眠っている。

　このスタイルで暮らすようになって、我が家の幸福度は飛躍的に向上した。すごく、居心地のいい家になったのだ。毎日、朝起きたらマットレスを片付けて、ラグを敷いて、クッションを置いて整えるようになったことで、自然と掃除の回数も増えた。床に近い生活をするようになったものだから、雑巾掛けも回数が増えた。細かい埃がなくなってくると、他の場所も整えていきたくなる。自然と、あちこちを磨いたり、拭いたりする回数が増える。そうすると、なんでもない時間がどんどん気持ちよくなっていく。なんでもない時間が気持ちよくなっていくと、小さな幸せの感度が高まっていく。

　先日は、KINTOのコーヒーカラフェを購入した。我が家ではずっと、家人がコーヒーメーカーで珈琲を淹れてくれていたのだが、仕事中の家人に珈琲を淹れることができれば……と思って、しばらくの間、コーヒードリッパーを探していた。ちょうど、おあつらえ向きに、シンプルなデザインのものが見つかったので、これも運命の出会いだろうと、家に一緒に持ち帰ることにした。

　それに合わせて、くつろぎスペースの棚を一段、珈琲とお茶のコーナーにした。紅茶やハーブティーの箱、珈琲豆の缶、ガラス製のティーポットと共に、新しくやってきたコーヒーカラフェも並べて、大好きなヒュッゲの本も並べたら、くつろぎ度がアップした。今も、パソコン画面から目を上げると、そのコーナーが目に入る。目に入るだけで、嬉しくてにやにやしてしまう。これもひとつの幸せだ。

　ちなみに、私が書き仕事をするのは、前述の書き物机のこともあれば、くつろぎスペースのクッションのこともある。今は、クッションに座って、膝上クッションテーブルにパソコンを乗せて、書いている。ラグの上には、お盆に乗ったミルクティーとビスケットが置いてある。姿勢や見える景色が変わると、思考や文章も変わっていく。面白いものだと感じる。

　ラジオを聞いたり、音楽を流したりしながら、それぞれの空間でそれぞれのことをする。キーボードに指を走らせる気配を感じるだけで、穏やかになる。たまに立ち上がって、お湯を沸かして、珈琲を淹れる。最初は珈琲風味の色の付いたお湯にしかならなかったのだが、回数を重ねるうちに、段々と珈琲らしくなってきた。

　こうした暮らしを重ねるうちに、私自身もまた変わっていくのだろう。時間をかけて、変わり、育っていく自分からは、どんなエッセンスが抽出されていくのだろうか。珈琲をもっと上手に淹れられるようになる頃には、エッセンスの味も香りも深まっているだろうか。その変化を楽しみにしながら、この暮らしを育てていこう。

ひびのつづり